歯科補綴学第一教室

[ 編集者:歯学部・歯学研究科   2020年2月1日 更新 ]

 歯科補綴学第一教室には、材料系、顎機能系、インプラント系、組織再生工学系の4つの研究班があります。
 材料系研究班では、ファイバー補強のレジン材料に関する力学的解析、ジルコニア系セラミックスの電気泳動による加工、そしてマイクロCTを用いたメタルフリークラウンの非破壊解析などに取り組んでいます。
 顎機能系研究班では、咬合干渉部位の検出や歯周組織への影響、顎関節症患者における社会心理学的背景や認知行動療法の応用について検討し、顎顔面の慢性疼痛の性差や免疫学的評価、筋痛患者における筋疲労の客観的評価などを行っています。また、患者の自然な睡眠環境下でブラキシズムの検査が行えるシステムを開発しています。
 インプラント系研究班では、インプラント植立シミュレーションシステムとCAD/CAMによる手術用サージカルガイドの製作、ヘッドマウントディスプレイを用いたインプラント手術支援システムを開発しています。
 組織再生工学系研究班では、顎口腔組織の再生医療をめざした研究を進めています。間質幹細胞の分化機構に着目し、その分化過程には遺伝子サイレンシングの機構が存在することを示しています。また、この分化過程にエピジェネティクス機構が関与している可能性を検討しています。

スタッフ

職名 氏名 E-mail(@以下はdent.osaka-u.ac.jp)
教授 矢谷 博文  
准教授 石垣 尚一  
講師 瑞森 崇弘  
講師 峯 篤史  
助教 中野 環  
助教 若林 一道  
助教 萱島 浩輝  
助教        

顎口腔機能の再建をめざして

歯科補綴学第一教室

 最近では、優れた物性をもつセラミックスやレジンを使用することにより、審美性や生体親和性に優れ、患者のニーズに応えるメタルフリーの歯冠修復が行えるようになった。材料系研究班では、大阪大学大学院歯学研究科の21世紀COEプロジェクト「フロンティアバイオデンティストリーの創世」のなかでも、「話す、噛むと美の回復」に直結したセラミックスやレジン材料に関する様々な研究を行っている。レジン系材料に関しては、グラスファイバーで補強したブリッジフレームやファイバーポストについて主に力学的な解析を行った。セラミックスに関しては、電気泳動法によるジルコニア系複合材料の成形に取り組んでいる。また、マイクロCTを応用して非破壊でメタルフリークラウンの内部欠陥を検査する方法についても検討している(図)。
 顎機能系研究班では、顎関節症、顎顔面慢性疼痛、ブラキシズムを中心に研究を行っている。顎機能研究班系(基礎系)では、COEプロジェクト「フロンティアバイオデンティストリーの創生」のうち、「歯周病と硬組織」に関連したテーマとして、咀嚼運動分析を応用した咬合干渉が歯周組織に及ぼす影響、「話す、噛むと美の回復」に関連したテーマとして、面圧センサーを用いたチェアサイドにおける咬頭干渉部位の検出方法について検討を行った。また、「痛みと味覚」に関連したテーマとして、認知行動療法の顎関節症治療への応用、疼痛感受性の性差、顎関節症患者の社会心理学的背景、唾液中のクロモグラニンAやコルチゾール量の免疫学的解析、筋痛患者を対象とした筋疲労の客観的評価方法に関する検討を進めている。
 睡眠中の歯ぎしり(ブラキシズム)が引き起こす障害には、歯の症状や咀嚼筋、顎関節への悪影響、顔貌の変化などがある。ブラキシズムの確定診断には患者がスリープラボに宿泊して検査を受ける必要があるなど困難な面があった。顎機能系研究班(臨床系)では、COEプロジェクト「フロンティアバイオデンティストリーの創生」の「歯周病と硬組織」、「話す、噛むと美の回復」および「痛みと味覚」の分野に関連したものとして、患者が自宅で自然な睡眠環境下で、ブラキシズムの検査を行うシステムを開発し、診断や治療への応用を試みている。
 歯科の分野にITテクノロジーを応用することも大きな研究テーマとなる。この分野では、以前から歯科用CAD/CAMシステムや顎運動の計測システムに関する検討を行ってきた。インプラント系研究班では、機能や審美性に優れた処置が行える補綴主導型のインプラントシミュレーションシステムと CAD/CAMによるサージカルガイドの開発を行うとともに、このシステムの臨床応用を進めている。また、ヘッドマウントディスプレイを用いたインプラント手術支援システムの開発にも取り組んでいる。これらの研究は、COEプロジェクト「フロンティアバイオデンティストリーの創世」のなかでも、「話す、噛むと美の回復」につながるものである。この他に口腔インプラント研究班では、即時荷重インプラントや内部連結機構を有する陽極酸化処理インプラントの臨床応用といったインプラント治療に関する臨床エビデンスの蓄積にも努めている。
  近年、再生医学の領域は飛躍的な進歩を遂げており、生体機能の一部を喪失した場合、無機的な材料によって回復する時代から、機能的な自己組織によりこれを再生する時代へ移っている。歯科補綴医療はこれまで歯科材料を用いた置換治療に依存して発展してきたが、これに再生医学を取り込んだ次世代の顎口腔機能の再建治療をめざした研究が行われつつある。組織再生工学系研究班では「フロンティアバイオデンティストリーの創生」の一環として、顎堤、舌、咀嚼筋などの顎口腔組織の再生をめざし、幹細胞治療に着目した基盤研究を展開している。幹細胞治療とは、本来乏しいはずのヒト組織の再生能力を自己の細胞を用いて引き出すための戦略である。そのためには、成体に存在する幹細胞を体外で培養増幅し、同時に生理活性物質あるいは遺伝子操作による分化の効率化を行い、これを再生の足場と共に欠損部位に移植して組織再生を促す技術が必要である。しかしながら、用いる成体幹細胞の分化方向を確実かつ効率的に運命付けるためには、成体幹細胞の分化機構について解明しなくてはならない問題が多く残っている。これまでの我々の取組みに加え、成体幹細胞分化へのエピジェネティクス機構の関与を示す知見をもとに研究を進めている。

今後の展望

歯科補綴学第一教室

1.歯冠修復の材料学的研究
 臨床で歯冠修復を行う際には、レジンやセラミックスのように歯冠色を再現できる材料が求められる。歯冠色材料は金属に比べ、強度や靭性に劣っているので、物性をコントロールして歯冠修復に適した材料をつくる必要がある。現時点では、歯に優しい材料が必要な場合には、天然歯に近い弾性率をもつファイバー強化のレジン系材料の使用が有望であり、金属のような高い強度と靭性が必要な場合にはジルコニア系のセラミックス材料が適していると思われる。再生医療が発達しても、必要な色調や形態をもつ理想的な歯が再生できるとは考えにくく、今後も引き続き、最新のナノテクノロジーなどで物性を制御した材料について検討を行いたい。また、CAD/CAMシステムに代表されるITテクノロジーは、これからの医療に不可欠なものであり、さらに研究を進めたい。
2.顎機能研究
 痛みのために使用される年間の医療費は莫大なものであり、その40%は頭頸部の痛みに対する医療費といわれている。我々の研究は、痛みの4要素(侵害受容、疼痛、苦痛、疼痛行動)のうち、侵害受容と疼痛の発生機序の解明に大きく貢献したものと考えられる。
 一方、苦痛と疼痛行動は痛みの感知に続いて発生する感情や心理状態に付帯する生体現象であり、侵害刺激が同じであっても男女間では大きく異なる可能性がある。そこで、痛みに対する個体医療を確立することを目的として、今後も痛みの認知や感受性に関する性差の検討を引き続き進めていく予定である。また、慢性痛の発症状況の調査についても、歯科臨床の現場から明らかにしていきたい。
最近、顎関節症は自己限定性の疾患であることが明らかにされ、保存療法が第一選択であることが理解されつつある。しかしながら、ランダム化比較試験に代表される質の高い臨床研究はまだまだ不足しており、各種の保存療法の優劣に関する情報は不足している。我々は認知行動療法が顎関節症に対する初期治療として有効であることを明らかにしたが、引き続きランダム化比較試験を行って顎関節症の治療法に関するエビデンスの蓄積、疲労検査等の新しい検査方法の開発に努めていきたい。また、顎関節症の病態や治療法に関する研究に比べて、その発症機序の解明は進んでいない。中でも、睡眠時ブラキシズムは顎関節症の重要な発症要因であるとされていながら、ブラキシズム自体には未知な点が多い。今回開発したシステムは、患者が自然な状態で睡眠した際のデータを採取できるので、ブラキシズムについてより多くの知見が得られるものと期待している。今後はこのシステムの臨床応用を促進するとともに多方面からブラキシズムに関する研究を行っていきたい。
3.口腔インプラント研究
我々が歯科理工学教室、和田精密歯研と共同開発した補綴主導型のインプラントシミュレーションとCAD/CAMによるガイドプレートを使用することにより、従来は経験に基づいて行うことの多かったインプラント手術がより容易で確実に行えるようになった。今後は、三次元でより使いやすいシミュレーションソフトを開発することやラピッドプロトタイピングで製作するガイドプレート材料の薬事認可を受けることが課題となる。また、現在実験中のヘッドマウントディスプレイを用いたインプラント埋入支援システムが実用化されれば、インプラント手術がさらに安全で確実になるものと思われる。臨床でのエビデンスの蓄積を含めて、今後もインプラントの臨床に直結した様々な研究に取り組んでいきたい。
4.組織再生工学研究
 最近のNature誌のトピックに「エピゲノム時代の到来」と掲げられているように、再生医学領域を含めた様々な分野においてエピジェネティクス研究は急速に進んでいる。DNAメチル化は個体発生における重要性が知られているものの、組織特異的幹細胞の分化におけるDNAメチル化の機能的な意義についての詳細は未だ不明な点が多い。ゲノム生物学的アプローチとして生命現象におけるDNAメチル化の役割が解明される一方で、細胞工学的アプローチとして RNA干渉の技術を応用し、特定の遺伝子プロモーターDNAおよびヒストンのメチル化を誘導して転写レベルでの遺伝子サイレンシングを行う試みも行われている26)。細胞治療に用いる幹細胞に対して、標的組織固有の記憶情報に関わる重要なDNAメチル化部位をターゲットとした操作を行うことができれば、効率的かつ確実に分化の標的化が行える可能性がある。今後、成体幹細胞の分化過程におけるエピジェネティクス機構が明らかとなり、再生歯科医療に貢献できる日が来ることを切に願う。

謝辞

研究にご協力を頂いている方々へ、感謝の意を申し上げます。
(材料系・口腔インプラント系研究)
・歯科理工学教室 荘村泰治教授
・立命館大学工学部 高野直樹教授
・大阪大学産業科学研究所 関野 徹准教授
・企業:クラレメディカル、島津製作所、白水貿易、バイオニック、メディア、松下電工、モリタ、和田精密歯研(50音順)
(顎機能系研究)
・大阪大学医学系研究科社会環境医学講座 森本兼曩教授、戸田雅裕助教
・企業:東芝研究開発センター 亀山研一氏、鈴木琢治氏
(組織再生工学研究)
・UCLA歯学部ワイントロープ再建生体工学センター 西村一郎教授

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