咀嚼筋筋紡錘(深部)感覚経路

食べることは、生命維持の根幹です。また、高齢化社会にけるQOLの観点から、いつまでも美味しく食べられることが求められています。美味しく食べるためには、口腔内や口腔周囲に生じる感覚情報が脳内へ正しく伝達され、その情報を基に、脳が口腔周囲の筋に運動命令を正しく伝達する神経機構が必要です。我々は、これらの感覚と運動の発現に関っている脳内の神経機構の解明をめざしています。


咀嚼筋筋紡錘の感覚が入力する三叉神経上核の同定

三叉神経上核には、三叉神経中脳路核ニューロンによって咀嚼筋筋紡錘の感覚が伝達される。ラットの三叉神経上核が、細胞構築学的かつ電気生理学的に正確に同定できた。この結果は、三叉神経上核を経由する咀嚼筋筋紡錘の感覚の、顎反射や上行性脳内伝達機構に果たしている重要性の今後の解明に必要な基礎データとなった。(Fujio et al., Neuroscience, 2016)

咀嚼筋筋紡錘の感覚の視床投射の解明

咀嚼筋筋紡錘の感覚が、三叉神経上核から反対側優位に視床後内側腹側核の尾腹内側部(VPMcvm)に伝達されることが明らかになった。この結果より、視床後内側腹側核に至る三叉神経視床路が2つ存在し、口腔顔面感覚の中で咀嚼筋筋紡錘の感覚と他の感覚とが明確に区別されて伝達されることが分かった。(Yoshida et al., Brain Struct Funct, 2017)

咀嚼筋筋紡錘の感覚を伝達する視床-大脳皮質路の解明

咀嚼筋筋紡錘の感覚は、視床後内側腹側核の尾腹内側部から、大脳皮質の主に二次体性感覚野の最吻側部の吻腹側に接した顆粒性島皮質の背側部(dGIrvs2)に伝達され、一次体性感覚野の腹側端と二次体性感覚野の最吻側部にもわずかに伝達されたが、運動野には投射されなかった。この結果は、咬筋筋紡錘の感覚の情動機能への関与を示唆した。(Sato et al., Neuroscience, 2017)

咀嚼筋筋紡錘感覚の視床髄板内核群 (OPC) への経路の解明

咀嚼筋筋紡錘の感覚が、三叉神経上核から視床のVPMcvmに加え、視床髄板内核群のoval paracentral nucleus(OPC)にも両側性に伝達された。この経路の賦活がトゥレット症候群の発症と治療に関与する可能性が示された。

視床髄板内核群 (OPC) から大脳への投射の解明

ラットのOPCから大脳皮質一次体性感覚野 (S1)、二次体性感覚野 (S2) およびVPMcvmからの投射を受けるdGIrvs2を含む顆粒性島皮質(GI) へ広く投射を与えることを明らかにした。これにより、OPCを経由して伝達される咀嚼筋筋紡錘感覚は、大脳皮質で情動や自律機能に加え、感覚の弁別機能への関与が示唆された。 (Tsutsumi et al., Brain Struct Funct, 2021)




咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳皮質投射の解明

咀嚼筋筋紡錘感覚はSu5経由で、主に両側の小脳皮質の単小葉B、第二脚、片葉の3ヶ所に強く投射することが明らかになった。また、頸部と上肢の筋紡錘感覚の中継核である外側楔状束核 (ECu) からの小脳皮質投射と比較すると、Su5からは小脳半球部、ECuからは小脳虫部へ分布することが明らかになり、さらに両者の分布はほとんどオーバーラップしなかった。このことから、Su5経由で伝達される咀嚼筋筋紡錘感覚の小脳での機能面において頸部・上肢などの体部の筋紡錘感覚とは異なる新たな機能の存在が示唆された。 (Tsutsumi et al., Cerebellum, 2022)

口腔内スプリント装着でトゥレット症候群患者のチック症状を改善させる

トゥレット症候群患者のチックの変化を、歯科スプリントを口腔内に装着する前後で比較し、チック症状が軽減することを示した。口腔内スプリントの装着がトゥレット症候群の新たな治療法として認知され、普及することが期待される。(Murakami et al., Mov Disord., 2019)

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