~成長に伴い現れる骨格異常のメカニズム解明に向けて~

組織・発生生物学講座の佐伯直哉招へい研究員、阿部真土講師大庭伸介教授らのグループは、毛髪鼻指節骨症候群の患者に起こる、生後の成長に伴いその症状が顕著になる骨格系病変の一部を再現するマウスを作成しました。

毛髪鼻指節骨症候群(TRPS)は、転写因子であるTrps1遺伝子の変異が原因として起こる希少な遺伝性の疾患で、生まれつきの指の短さや、心臓や腎臓の重い形成異常などが主な特徴として挙げられます。また、生まれつきの症状だけでなく、若年期から低身長、変形性関節症、重篤な場合は膝蓋骨の脱臼など、骨格系の異常が起こる場合もあります。

TRPSを発症するメカニズムについて、これまでTrps1遺伝子を欠損させたTrps1ノックアウトマウスを用いて解析が進められてきました。しかし、Trps1ノックアウトマウスは生後すぐに死んでしまうため、生後の成長に伴い発生する骨格系異常の病態・メカニズムの解析を行うことは困難でした。

今回、次世代シークエンサー解析を駆使することで、Trps1遺伝子の発現制御候補領域を見出し、このゲノム領域を欠損させた「エンハンサーノックアウトマウス」を作成しました。このマウスは、出生後も生存し、雌雄間の交配もできることが確認されました。一方、このマウスではTrps1遺伝子が様々な組織で発現低下していること、その成長に伴い、TRPS患者に認められる成長障害や股関節の形態形成異常などを再現できることがわかりました。

本研究で作出したモデルマウスにより、これまで動物では難しかった生後のTRPS病態の解析が可能となり、成長障害や骨格異常などのメカニズム解明と、その治療法の開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2024年6月21日に「Human Molecular Genetics」に掲載されました。

タイトル:“Deletion of Trps1 regulatory elements recapitulates postnatal hip joint abnormalities and growth retardation of Trichorhinophalangeal syndrome in mice”
著者名:Naoya Saeki, Chizuko Inui-Yamamoto, Yuki Ikeda, Rinna Kanai, Kenji Hata, Shousaku Itoh, Toshihiro Inubushi, Shigehisa Akiyama, Shinsuke Ohba, Makoto Abe (*責任著者)
DOI:https://doi.org/10.1093/hmg/ddae102