
米国での歯科医師免許取得、そして海外での臨床経験を経て、現在は日本で開業医として活躍する大谷さん。グローバルな視点を持ち、国際的に活躍している大谷さんの歯学部時代、そして海外での経験、開業に至るまでの道のりについて伺いました。(インタビュー実施:2025年)
ー歯学部を志したきっかけは何でしたか?
歯科医師である父の影響を受けて、歯科医療の道に進むことを決めました。
歯学部のトップ校の一つである大阪大学歯学部が地元にあるということで、それ以外の選択肢はあまりありませんでした。 大阪大学は総合大学であり、他学部の学生との交流ができる点も魅力に感じました。
ー歯学部での学生生活(授業、実習、研究)で、特に印象的だった出来事や学びはありますか?
特に3年次の基礎配属実習で基礎研究に携わったことが印象に残っています。何かに対して疑問を抱き、それに対する仮説を立て、検証していくという過程の中で多くのことを学ばせていただいたと思います。その考え方は、基礎研究だけでなく臨床家として日々の症例に向かう際にも大いに役立っています。
ー歯学部での勉強や実習を通じて、どのようにスキルや知識が身についたと感じますか?
授業の中でグループに分かれてプレゼンテーションを行う機会が度々あり、人にものをわかりやすく伝える能力が身についたと思います。そのスキルは現在の講演活動や、患者さんに対してのコンサルテーションにも活きています。
また、大学院時代には英語論文を多く読み、自分でも英語論文を書くという経験をしました。現代では、科学的論文をベースに「エビデンスに基づいた医療」を実践することが求められており、英語論文を苦手意識なく読めることで最新のエビデンスに容易にアクセスすることが可能になり、さらにはそれを実際の臨床に活かすことができています。

ー他学部との交流や課外活動など、歯学部以外の経験で印象的だったことはありますか?
6年間歯学部サッカー部に所属しており、「オールデンタル(歯学部学生の全国大会)優勝」という一つの目標に向けてみんなで一致団結したことが一番の思い出です。6年間で一緒に苦楽を共にした先輩、後輩、同期たちは今でもお互いに助け合える仲間として一生の財産となりました。開業してからもお互いに情報交換できる仲間がいることは、非常に心強いです。
ー「歯科補綴学」を専門に選ばれた理由は何ですか?この分野の魅力や重要性について高校生にも分かりやすく教えていただけますか。
歯科補綴学は歯もしくは歯の一部を失うことで損なわれてしまった口腔機能を回復する専門分野です。具体的には被せ物や義歯、インプラント(人工歯根)などを用いて機能の再建を行います。「美味しくものを食べたい」とか「美しい笑顔になりたい」といった患者さんの願望に対して直接的に解決できるのが歯科補綴学の魅力だと思います。また、他の分野の専門医と連携して治療を行うような難症例においても、歯科補綴医が専門医チームの中心となって治療計画の立案を行うという責任の大きさも魅力の一つではないかと思います。
ー米国ワシントン大学では、どのようなプログラムで補綴学を学ばれましたか?
ワシントン大学ではGraduate Prosthodontics Programというところで、歯科補綴学について基礎から学び直しを行いました。アメリカのGraduate Programは純粋に専門医を育成する臨床的なプログラムで、私にとっては小手先の技術を学ぶ場所ではなく、補綴専門医としてのフィロソフィーを確立する場所でした。過去から現在までの歯科補綴学の変遷を論文ベースで学び、その知識をもとに実際の治療において臨床的判断を下すトレーニングを徹底的に受けました。その結果、どのような難症例に対しても根拠を持って自分なりの判断を下すことができるようになりました。
ー米国歯科医師免許取得までのプロセスや苦労について教えてください。
米国の歯科医師免許取得のためには2種類の国家試験に合格する必要があります。一つはNBDE Part1, Part2で、日本の国家試験に近いような試験です。これは歯学部在学中に自分のタイミングで受けられる試験で、何度でも(一定の制限はありますが)受けることが可能です。卒業するタイミングでRegional Boardという、各地域ごとの実技試験があり、実際の患者さんに対しての治療をその場で採点されるという、日本ではあまり考えられないタイプの試験です。日本での臨床経験もあり、実技試験に関しては特に苦労はしませんでしたが、やはり英語で一から専門用語を覚え直すという点では、非常に苦労しました。(国家試験のシステムは随時変更がありますので、興味がある方は最新の情報を検索してください。)
ー海外での診療経験は現在どう活きていますか?帰国後の診療や開業に影響を与えた点があれば教えてください。
アメリカの開業医では、多くの国籍の患者さんの診療にあたりました。それぞれの文化の違いや、医療に対する考え方の違いがあり、それを考慮したプランニング・治療を行わなければなりませんでした。その経験から、現在でも国籍は関係なくその患者さんのバックグラウンドを十分に理解して、それに配慮した医療を提供するように心がけています。
また、英語で診療ができることは私の強みの一つでもありますので、外国人患者を極力受け入れられるような環境を整えるように努力はしています。

ー開業医として心がけている理念や目標は何ですか?
「歯科医療を通じて患者さんの人生をより良いものにできる」と信じて、患者利益を第一に考えた医療を行うよう努力しています。そのためにも、我々医療従事者も日々研鑽を積んで、少しでもより良い医療を提供し続けれるよう心がけています。
ー海外で活躍された後、日本の地域医療に戻られた理由や、それによって見えてきたやりがいは何ですか?
日本に帰ってきて、日本の歯科医療の良さと悪さを客観的に見ることができるようになりました。自分が見てきた世界の歯科医療や、学んだ知識・技術を伝えるために、若手歯科医師に向けて講演活動などを行うことで、少しでも日本の歯科医療の発展に貢献したいと思います。

ー高校生へのメッセージをお願いします!
大阪大学歯学部は世界の歯科研究をリードする研究機関の一つであり、そこに集まる人材は次世代の歯科医療を背負う研究者や臨床家です。歯学部在学中にそのような世界の一戦で活躍する人たちと触れ合うことで、自然と歯科医療の最先端を意識するようになるでしょう。私もそのような先輩たちに日々接することで、視点が大きく変化したことを実感しています。
皆さんも大阪大学歯学部に入学されて、これからの新しい歯科医療を一緒に創造・発信していきましょう!