「患者さんの人生の最期まで関わることのできる歯科医師を目指したい。」 そう語る石橋さんは、大阪国際がんセンターでがん患者の周術期口腔機能管理に尽力されています。高校生に向けて、進路選択のヒントとなる石橋さんのキャリアストーリーをご紹介します。(インタビュー実施:2025年)
ー歯学部を志したきっかけは何でしたか?
もともと、小学生のころから歯科医院はよく通っており、身近な存在でした。強く歯科医師になりたいと思ったのは、中学生の時、祖母宅に泊まりに行った際、夜中に祖母の義歯を初めて見てびっくりした時です。歯がない祖母の顔を見てさらにビックリしましたが、「おばあちゃんっ子」だったので、「おばあちゃんのために入れ歯を作りたい!」と思ったことが歯科医師になりたいと思ったきっかけです。また、母から「これからの女性は手に職を持たなければならない」と言われていたことも影響し、どんな時代になっても求められる仕事をと考えていました。
ー他の医療系、理系学部との違いや魅力をどのように感じていましたか?
中学・高校の環境が理系に進む予定の同級生が全体の3分の2で、そのほとんどが医歯薬系希望でした。その中で一番仕事内容が想像できて、身近な学部が歯学部だと感じていました。
ー阪大歯学部での学びや歯学部以外の経験について教えてください。
当初、口のことだけを学ぶと思っていましたが、全身との関係を基礎から学べることに驚き、歯科の可能性を知りました。また、「口腔」という専門性をもちながらも、全身とのかかわりについての知識を得ることができました。
他学部との交流については、医学部との共通の授業、医学部テニス部との交流会があり、そこで多くの友人ができました。
ー歯科医療の仕事にどのようなやりがいや魅力を感じていますか?
医療系の仕事は普通の仕事ではないと感じています。患者さんの健康に直接関係するとても責任のある仕事で、さらに仕事をして「ありがとう」と言われることは通常あまりないと思いますが、そのような特別な仕事をしていることにやりがいと責任を感じます。また、歯科医は患者さんにとって「怖い」という印象が強いのですが、だんだんと患者さんと信頼関係ができ、ご自身の口腔の状態に興味を持つようになった時に「良かった」とやりがいを感じます。
ー歯学部卒業後のキャリア(進学、就職)の選択肢について、当時はどのように考えましたか?
当時は歯科の中にも多くの専門が有り、一つに決めることができなかったので、より幅広く研修ができる職場を選択しました。
ー卒業後、現職にいたるまで、どのようなキャリアを歩まれましたか。
1999年に大阪大学歯学部を卒業
1999年、兵庫医科大学歯科口腔外科で臨床研修医
2003年、星ヶ丘厚生年金病院歯科口腔外科で医員
2006年、大阪大学歯学部附属病院第一口腔外科で医員
2010年、NTT西日本大阪病院歯科口腔外科で医員
2014年、吹田徳洲会病院歯科口腔外科で部長
2016年、大阪大学大学院歯学研究科助教(口腔外科学第一)
2017年、大阪大学大学院歯学研究科講師(口腔外科学第一)
2017年4月より大阪国際がんセンター歯科部長に就任
ー現在の勤務先と業務内容を教えてください。
大阪国際がんセンターでがん患者の周術期口腔機能管理に従事し、がん治療に係る口の副作用の重症化を防いだり、口腔が由来の感染症を予防するための口の管理を行っています。また、がん専門病院の歯科医師として、がん治療やそれに伴う口腔の有害事象などについて他の医療従事者に情報発信を行っています。
ー現在のお仕事で印象深いエピソードを教えてください。
今でも忘れられない患者さんが何人もいます。特に、若い頃に診療した口腔がんの患者さんが、私が異動するたびに転院してまでついてきてくださったことが印象に残っています。最終的には転移のコントロールが難しくなり終末期を迎えられた際、「検体をしたい。先生の出身大学に検体をしたい。自分も何かの役に立てると思う」とおっしゃいました。必死に生き、必死に日々を過ごされている姿を間近で感じ、以前から真摯に患者さんに接してきたつもりでしたが、改めて自分の仕事の責任の重さを痛感しました。
ー今後の歯科医療の可能性と、ご自身の目標について教えてください。
「食べる」「話す」「笑う」「呼吸する」といった、人間らしく生きるために欠かせない機能を担う「口」の専門家として、歯科医療は全身の健康とも深く関わっており、その責任は非常に大きいと考えています。しかし、大切な臓器であるにもかかわらず、多くの方が歯科医院に苦手意識を持っているのが現状です。私は、国民が口腔の健康に関心を持ち、歯科での口腔管理が健康維持につながることを積極的に発信していくことを自分の使命としています。また、多くの患者さんの人生の最期まで関わることのできる歯科医師を目指していきたいと考えています。
ー歯学部で培った経験が、これからの仕事や人生にどう活きていくと感じていますか。
私は学生時代は正直なところ、あまり真面目に勉強していたとは言えません。今振り返ると、もっとしっかり学んでおけばよかったと後悔する気持ちもあります。しかし、そのような経験も含めて、歯学部で過ごした日々は自分にとって大きな財産です。基礎配属での初めての動物実験、ドキドキした臨床実習など、知識や技術はもちろんですが、患者さんや同級生、先輩後輩との関わりの中で得たコミュニケーション力や、限られた時間の中で課題をこなす力、失敗から学ぶ姿勢など、社会人として、また歯科医師として必要な多くのことを身につけることができました。今後も、歯学部での経験を糧に、よりよい医療を提供し続けたいと考えています。
ーご自身が高校生だった頃に感じていた進路選択の悩みや、それを解決した方法を教えてください。
高校生の頃は進路選択についてかなり悩んでいました。私は周囲に流されやすい性格で、国語が苦手だったこともあり、自然と理系を選びました。また、将来は資格を取りたいという思いから、医歯薬の中で進路を考えました。その中でも歯科は自分にとって一番身近な職業だったことが決め手になりました。
進路を決める際には、大人の話をよく聞き、正直に先生や親に相談していました。ただ、今振り返ると、もっとさまざまな道を選んだ大人や社会人の話も聞いておけばよかったと思います。当時は相談できる相手が先生くらいしかいなかったのが少し残念でした。進路に悩んだときは、できるだけ多くの人の話を聞くことが大切だと今は感じています。
ー阪大歯学部への進学を考えている高校生に、どんな点を特におすすめしますか?
阪大歯学部への進学を考えている高校生には、「一流の勉強ができる環境が整っている」という点を特におすすめします。歯科医師の資格取得はもちろん、研究や国際交流など幅広い分野に挑戦できるチャンスがあり、自分の可能性をどこまでも広げられる場所です。また、教官には親切な方が多く、関西人らしくおもしろくて人情深い先生もたくさんいらっしゃいます。将来の選択肢が豊富で、あなたの人生の可能性を無限大にしてくれる学部だと思います。