口腔粘膜疾患AI 研究の社会実装へ
2026-08-15 00:08
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口腔粘膜疾患AI 研究の社会実装へ

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🔷概要
 大阪大学歯学部附属病院の平岡慎一郎講師らの研究グループによる、人工知能を用いた口腔粘膜疾患※1の早期発見支援研究が、プログラム医療機器※2「口腔粘膜画像解析システム Mucosight AI※3」として製造販売承認を取得し、社会実装の段階に進みました。
 本研究開発は、大阪大学が研究開発と知財の面で中心的な役割を担い、NVIDIA がAI モデル開発の技術的知見と計算環境を支援し、株式会社モリタ東京製作所が医療機器としての製品化・薬事対応・製造販売を担うという、三者の役割分担のもとで実現したものです。
 口腔がんは、胃がんや大腸がんと異なり、内視鏡などを用いなくても口腔内を観察することで発見の手がかりを得られる疾患です。しかし、初期の口腔がんや口腔潜在的悪性疾患は、口内炎や良性疾患と見分けることが難しい場合があります。特に一般歯科診療の現場では、口腔粘膜疾患を日常的に多数経験する機会が限られるため、専門医への紹介判断に迷う場面があります
 本システムは、一次歯科医療機関で撮影された口腔内画像を解析し、口腔がん、白板症※4、良性腫瘍、口内炎の特徴を有する所見を対象として、高次医療機関への受診勧奨※5 の要否判断を支援する所見情報を提供します。本システムは診断を代替するものではなく、最終的な診断は歯科医師または医師が行います。

 今回の承認は、大学発のAI研究が、産学連携と多施設共同研究を通じて、歯科口腔外科領域における新たな診療支援の仕組みとして社会実装へ進んだ重要な成果です。本システムが適切に活用されることで、口腔粘膜疾患に不慣れな歯科医師の判断を支援し、必要な患者さんを高次医療機関へつなぐ体制の強化が期待されます。今後は、口腔外科専門医による診療体制と地域歯科医療機関との連携を強化し、口腔がんの早期発見と適切な専門医療への接続に貢献していきます。

🔷研究の背景
 口腔がんは、舌、歯肉、口腔底、頬粘膜、口蓋などに発生する悪性腫瘍です。口腔内は直接観察できる領域であるにもかかわらず、初期病変は痛みが乏しいことや、口内炎、白板症、良性腫瘍などとの鑑別が難しいことから、発見が遅れる場合があります。
 進行した口腔がんでは、手術、放射線治療、薬物療法などを組み合わせた集学的治療が必要になることがあります。また、治療後には、咀嚼、嚥下、発音、整容面に影響が残る場合があります。そのため、口腔がんでは、早期発見と早期治療が患者さんの生活の質を守るうえで重要です。
 一方、歯科医療には、症状がない患者さんが定期的に受診するという特徴があります。歯科健診、メンテナンス、歯周治療、補綴治療などの機会に口腔粘膜を確認できるため、一般歯科診療は口腔がんの早期発見において重要な入口となり得ます。しかし、一般歯科医療機関では、口腔粘膜疾患や口腔がん疑い症例を専門的に評価する機会が必ずしも多くありません。
 研究グループは、この臨床課題に着目し、口腔外科専門医の知見と人工知能を組み合わせることで、一般歯科医療機関における受診勧奨の判断を支援できる仕組みの開発を2017年より進めてきました。

🔷研究の方法
 本研究は、大阪大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔外科学講座を中心として、複数の共同研究施設の協力を得ながら進めました。共同研究には、東北大学、奥羽大学、国立国際医療センター、藤田医科大学、朝日大学、熊本大学などの歯科口腔外科が参加し、口腔がん、白板症、良性腫瘍、口内炎などの口腔粘膜疾患画像の収集と医学的評価に協力しました。
 収集された画像については、口腔外科専門医が病変部位、疾患分類、画像品質、臨床情報との整合性を確認し、AIモデルの開発に用いるデータとして整備しました。口腔粘膜疾患の画像は、撮影条件、部位、病変の形態、炎症の程度、背景粘膜の状態が症例ごとに異なるため、単に画像を集めるだけではなく、臨床的に妥当なデータとして整える工程が重要でした。


 NVIDIAとの共同研究では、AIモデル開発に関する技術的知見と計算環境の支援を受けながら、大阪大学が整備した臨床画像データを用いてモデル開発を進めました。大阪大学は、データの医学的確認、モデル出力の評価、臨床現場で意味を持つ出力の検討を担い、NVIDIAはAIモデルの開発と高度化を支援しました。
 その後、本研究成果を基盤として、株式会社モリタ東京製作所により、医療機器としての製品化と薬事対応が進められました。医療機器としての開発では、単にAIの性能を高めるだけでなく、誰が、どの場面で、どの目的で使用するかを明確にし、誤解や過剰な判断につながらないように設計する必要があります。本システムでは、診断を代替するのではなく、一次歯科医療機関において高次医療機関への受診勧奨の要否判断を支援する位置づけが明確化されています。

🔷本システムの概要
 本研究成果を基盤とする承認済みプログラム医療機器は、デジタルカメラで取得した口腔内画像をクラウドサーバー上で解析し、口腔粘膜疾患に関する所見情報を提供する医療機器です。
 本システムは、口腔がん、白板症、良性腫瘍、口内炎の特徴を有する所見を検出対象とし、一次歯科医療機関における高次医療機関への受診勧奨の要否判断を支援します。主に歯科クリニック等の一次歯科医療機関での使用が想定されています。
 対象部位は、舌、歯肉、口腔底、頬粘膜、口蓋などの歯科口腔外科領域です。なお、対象疾患および対象部位には承認範囲があり、承認範囲外の疾患や部位について有効性が確立されているものではありません。
 本システムは、歯科医師または医師の診断を代替するものではありません。口腔内画像から異常が疑われる領域に関する所見情報を提示し、専門医療機関への紹介を検討するための初期情報を提供するものです。

🔷本成果の社会的意義
 本成果の意義は、AIモデルの開発にとどまりません。大阪大学の口腔外科専門医が日々の診療で向き合ってきた「早期に見つけられれば、より低侵襲な治療につなげられる可能性がある」という臨床課題を、大学、企業、共同研究施設が連携して社会実装へ進めた点にあります。
 口腔がんは、発見が遅れると、治療の負担が大きくなり、「口から食べられない」「食べにくい」といった生活の質への影響が生じる可能性があります。一方で、早期に専門医療へつなぐことができれば、治療の選択肢が広がり、治療後の機能温存や社会復帰に寄与することが期待されます。
 また、一般歯科医療機関は、地域住民が継続的に受診する歯科医療の入口です。本システムが適切に活用されることで、口腔粘膜疾患に不慣れな歯科医師の判断を支援し、必要な患者さんを高次医療機関へつなぐ体制の強化が期待されます。これは、口腔がんの早期発見だけでなく、地域差の少ない歯科口腔医療の実現にも貢献する可能性があります。
 さらに、高齢化が進む日本では、通院が困難な患者さんや、介護施設・在宅医療の場で口腔管理を受ける患者さんも増えています。将来的には、歯科医療機関、訪問歯科診療、地域医療機関、高次医療機関が連携し、口腔粘膜疾患を早期に拾い上げる仕組みづくりが重要になります。

🔷今後の展開
 大阪大学歯学部附属病院 口腔外科1(制御系)では、本システムを必要に応じて活用した地域の歯科医療機関から紹介された、口腔粘膜疾患または口腔がん疑いの患者さんに対して、口腔外科専門医が専門的な評価を行う診療体制の整備をすすめていく予定です。
 この診療体制では、一般歯科医療機関で確認された治りにくい口内炎、白斑、紅斑、びらん、潰瘍、腫瘤などの口腔粘膜病変について、専門医療機関への紹介を受け、口腔外科専門医が評価を行います。必要に応じて、本システムによる所見情報も参考にしながら、専門的な診察、追加検査、生検、治療方針の検討を行います。
 また、共同研究に参加した施設や地域の歯科医療機関との連携を段階的に強化し、口腔粘膜疾患の早期発見支援に関する診療ネットワークの構築を目指します。今後は、実臨床での使用経験を踏まえ、適切な撮影条件、紹介基準、専門医評価の流れ、患者さんへの説明方法などを整理し、AIを活用した歯科口腔医療の安全で有効な社会実装に取り組みます。

🔷特記事項
 本研究開発の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業「戦略的TR推進による自立循環型新規医療創出拠点の実現」(シーズA・B)「画像認識技術を用いた口腔がん・口腔粘膜疾患診断支援システムの開発」、および大阪大学共創機構 「Innovation Bridgeグラント 大型産学共創コンソーシアム組成支援プログラム」の支援を受けて実施されました。
【利益相反(COI)】
 本研究開発に関し、大阪大学は本技術に係る特許を保有し、株式会社モリタ東京製作所との間で特許権等実施許諾契約を締結しています。

🔷本医療機器の概要
一般的名称 :病変検出用口腔内画像診断支援プログラム※6
承認日 :2026年2月24日
承認 :厚生労働大臣承認(PMDAによる審査)
承認番号 :30800BZX00053000
販売名 :口腔粘膜画像解析システム Mucosight AI
使用目的:一次歯科医療機関における、高次医療機関への受診勧奨の要否判断の支援
上市時期: 2026年8月下旬ごろ リリース予定

 大阪大学は、口腔外科専門医の臨床知をもとに、多施設共同研究で収集された口腔粘膜疾患画像の整備、疾患概念の整理、モデル評価、社会実装に向けた臨床的位置づけの検討を進めるとともに、本技術に関する基本特許を含む知財を取得しています。
 また、新たな一般的名称が設けられたことは、大学発の口腔粘膜疾患AI研究が、研究段階にとどまらず、医療機器として社会実装されるための制度上の受け皿を得たことを意味し、口腔内画像を用いた口腔粘膜病変の検出支援が、医療機器として評価される領域として整理されたことを示します。

※承認の新規性(国内での位置づけ)
PMDAが公表するプログラム医療機器(AI SaMD)の承認品目一覧(2026年3月31日時点)に基づき、2026年7月時点で当研究グループおよび関係者が確認した範囲において、歯科口腔外科領域で口腔内画像を用いて口腔粘膜病変の所見情報を提示し、高次医療機関への受診勧奨の要否判断を支援する承認済みプログラム医療機器は、国内で確認されていません。本記載は製品の優秀性を示すものではなく、承認および一般的名称の新設という事実に基づく客観的な記述です。

🔷用語説明
※1 口腔粘膜疾患
 舌、歯肉、頬粘膜、口蓋、口腔底などの口腔粘膜に生じる疾患の総称です。口内炎、白板症、良性腫瘍、口腔がんなどが含まれます。
※2 プログラム医療機器
 疾病の診断、治療または予防に使用されることを目的とするソフトウェアで、医薬品医療機器等法上の医療機器に該当するものをいいます。
※3 口腔粘膜画像解析システム Mucosight AI
 承認された医療機器の名称です。
※4 白板症
 口腔粘膜に白色病変として現れる疾患で、口腔潜在的悪性疾患の一つとされます。すべてががん化するわけではありませんが、専門的な評価が必要です。
※5 受診勧奨
 患者さんに対して、必要に応じて専門医療機関の受診を勧めることをいいます。本システムは、一次歯科医療機関における高次医療機関への受診勧奨の要否判断を支援する所見情報を提供します。
※6 病変検出用口腔内画像診断支援プログラム
 口腔内画像を用いて病変の検出を支援するプログラム医療機器の一般的名称です。本研究開発は、この新設された一般的名称に該当する医療機器として承認されました。

🔷参考情報
平岡 慎一郎
(大阪大学 研究科総覧)https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/67f0066765d79d8d.html
(researchmap) https://researchmap.jp/shinichirohiraoka

※本件は2026年8月4日にプレスリリースで公式発表されました。




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