<臨床研究>

1. 成長評価による口唇裂・口蓋裂治療の検討(顔面形態評価・顎発育評価・骨代替材料による顎裂治療開発と硬組織評価)

口唇裂においては、片側裂、両側裂、個々の披裂形態上の特性に加えて、個々の症例における様々な口唇・外鼻の披裂、変形の程度を考慮した術式の適用が必要となります。当教室では二次元顔面形態評価ならびに三次元顔面形態計測をもとに、口唇裂患者における術前の口唇外鼻形態の特徴や、術後の顔面形態評価と口唇外鼻の対称性を獲得する上で視覚的評価(予後)に関わる形態学的パラメーター、予後予測因子に関する研究を行っています。また、口蓋裂治療においては、術式別の顎模型計測ならびに画像解析を行うことで、より良好な顎発育が得られる術式の改良に取り組んでいます。さらに、顎裂部骨移植手術においても、代替材料(β-TCP)の有用性と自家骨採取部位による予後評価を行うとともに、骨梁微細構造解析により、自家骨採取部位による生着後の骨梁特性が異なることやβ-TCP併用により骨梁特性の向上が獲得されるなど新しい知見が得られており、より低侵襲な治療法を確立するためにさらに研究を進めています。

関連論文

  1. Tanaka S, Fujimoto Y, Otsuki K, Kogo M. The validity of combined use of developed aesthetic rating systems: Infant Index and 5-Point Aesthetic Index for pre and postsurgical evaluation of cleft lip repair. J Craniomaxillofac Surg. (in press)
  2. Hara T, Tanaka S, Kogo M. Ankyloglossia superior syndrome with complex craniofacial anomalies: case report and literature review. Cleft Palate Craniofac J. (in press)
  3. Miyagawa K, Tanaka S, Hiroishi S, Matsushita Y, Murakami S, Kogo M. Comparative evaluation of bone microstructure in alveolar cleft repair by cone beam CT: influence of different autologous donor sites and additional application of β-tricalcium phosphate. Clin Oral Investig. 2020 Aug;24(8):2789-2797. doi: 10.1007/s00784-019-03142-1. Epub 2019 Nov 9.
  4. Otsuki K, Yamanishi T, Tome W, Shintaku Y, Seikai T, Fujimoto Y, Kogo M. Occlusion at 5 years of age following hard palate closure with vestibular flap. Cleft Palate Craniofac J. 2020 Jun;57(6):729-735. doi: 10.1177/1055665619892474. Epub 2019 Dec 18.
  5. Kishi N, Tanaka S, Iida S, Kogo M. The morphological features and developmental changes of the philtral dimple: a guide to surgical intervention in cases of cleft lip. J Craniomaxillofac Surg. 2012 Apr;40(3):215-22. doi: 10.1016/j.jcms.2011.04.019.
  6. Kishi N, Tanaka S, Iida S, Kogo M. Comprehensive evaluation of three-dimensional philtral morphology. J Craniofac Surg. 2011 Sep;22(5):1606-11. doi:10.1097/SCS.0b013e31822e5ebf.

2. 人工知能(AI)を用いた口腔がん治療成績向上のためのシステム開発

1) DeepLearning技術を用いた口腔粘膜疾患診断支援(口内炎と口腔がんの誤診を防ぐ)システムの社会実装に向けた研究開発

全国の共同研究機関より収集した、口内炎や口腔がんの大量の写真を、口腔外科専門医によるふるい分けを行い、そのデータを大阪大学サイバーメディアセンターのスーパーコンピューター(OCTOPUS)を使用してAIアルゴリズムの開発を行っています。また米国の大手IT企業であるNvidia社と新規のDeepLearning architectureの共同開発も行っています。我々のチームは世界に先駆けてこの診断支援システムの研究を開始しており、一日でも早い社会実装・実用化を目指しています。

2)口腔癌切除病理検体を用いた後発リンパ節転移のリスクを予測するAIの開発

口腔がん治療において、生命予後を規定する重要な因子が頚部リンパ節転移でありますが、治療前の画像検査では特定できないものの、実際の生体内では転移を来している状態(潜在的転移)が一定数存在します。我々は原発巣の切除検体の病理標本から推定できるAIの開発を行っています。

3)PET/CTおよび頭頸部CTを用いた口腔がん患者の予後を予測するSarcopeniaの自動検出AIの開発

我々は以前より、口腔癌患者における栄養・代謝・炎症のマーカーと、生命予後との関連を研究しており、現在高齢者での医療上の問題となっているSarcopeniaにも注目しています。そこでPET/CTおよび頭頸部CTを用いて、Sarcopeniaを自動抽出し、術前からの治療介入法を決定するAIシステムの開発を行っています。

4)口腔内微生物の可視化による治療法決定支援AIの開発

口腔粘膜疾患には、細菌やウイルスが関与する疾患も多くあるが、視診のみでは診断できないことも多い。検査手法は多々あるが、検査結果が出るまで時間がかかることが多くあり、実臨床では経験的治療が優先される場面が多くあります。そこで口腔内の微生物を可視化し、それを自動診断することで、治療法の決定をサポートするAIについて研究しています。

3. 鼻咽腔閉鎖不全症に対する軟口蓋脂肪注入の臨床研究

鼻咽腔閉鎖運動は軟口蓋の最も重要な機能であり、この機能が不全になると構音障害となります。鼻咽腔閉鎖不全症は、一般に口蓋裂の初回手術後の10~25%程度にみられますが、原因としては、元々の軟口蓋の組織量の少なさ、手術による瘢痕、軟口蓋を挙上する筋肉(口蓋帆挙筋)の動きの悪さ、その筋肉を動かす神経がうまく働かないことなどが挙げられます。鼻咽腔閉鎖不全症に対しては、以前より咽頭弁移植術が標準治療として行われていますが、鼻咽腔の形態を根本的に変えてしまうために成長期終了後まで施行できないという欠点があります。そこで近年、海外では軟口蓋(口蓋垂)、咽頭後壁、咽頭側壁などに脂肪注入することで鼻咽腔閉鎖不全症を改善する方法が報告されるようになってきました。我々はこの手術法を本邦に取り入れるのに先立ち、動物実験にて最も効果的である条件を検索し、その結果に基づき、鼻咽腔閉鎖不全症患者に対して、内視鏡下、軟口蓋鼻腔側粘膜に自家脂肪注入を行い、その治療効果を術後の言語評価などをもとに検討しています。

関連論文

  1. Isomura E, Matsukawa M, Nakagawa K, Mitsui R, Kogo M. Endoscopic soft palate augmentation using injectable materials in dogs to ameliorate velopharyngeal insufficiency. PLoS One.
  2. Nakagawa K, Isomura E, Matsukawa M, Mitsui R, Kogo M. The behaviors of the levator veli palatine muscle between two surgical conditions in dog: the comparison of Furlow’s and Push-Back methods. Cleft Palate Craniofac J. 2020 (in press).
  3. Isomura ET, Nakagawa K, Matsukawa M, Mitsui R, Kogo M. Evaluation of sites of velopharyngeal structure augmentation in dogs for improvement of velopharyngeal insufficiency. PLoS One. 2019; 14(2):e0212752.
  4. Kogo M, Sakai T, Harada T, Nohara K, Isomura ET, Seikai T, Otsuki K, Sugiyama C, Nakagawa K, Tanaka S. Our unified pharyngeal flap operation. J Cleft Lip Plate Craniofac Anomal. 2017; 4(3): 189-91.